12/8に開催された内閣府「子ども・子育て会議(第59回)」における、駒崎理事長の提言をご紹介いたします。
1.「保育の必要性認定」を撤廃し、全ての子どもたちが保育園を利用できるようにしてください。
2021年11月10日に日本保育協会理事長が「今後は保育の量から質の問題に重点が変わる」と表明し、保育が供給過多時代に移行しつつあるとの認識を示しました。
2020年11月に保育業界最大手のJPホールディングスグループは「児童数が減り赤字が続いた。今後も入園児が見込めない」と説明し、都内認証保育園4園を一斉閉園しました。
これらのニュースは、「保育所が供給過剰になってきている」ことを示唆するものです。自治体の積極的な取組もあり、待機児童数は昨年に続いて過去最小、東京23区と首都圏の政令指定都市では、21年4月入所を申込んだ人の倍率が平均1.00倍になりました。
厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ(令和3年4月1日)」保育所等の利用定員・利用児童数等の状況によると、保育所等(保育所等、幼稚園型認定こども園等、地域型保育事業)の定員充足率は減少傾向にあり、保育の供給過剰により定員割れが進んだ結果、運営を維持することができず撤退する事業者が2020年より既に現れてきています。
政府は保育所数を増やす方針を改め、ポスト待機児童時代に入ったことを明確に認識し、保育所の在り方そのものを大きく転換するべきです。
すなわち、「主に共働き家庭のためだけの保育園」から「全ての子どもたちのための保育園」へと転換していくべきです。
【概要】
専業主婦(夫)家庭や、労働時間が一定基準を満たさない保護者の場合、「保育の必要性認定」の要件に合致しないため、保育園の利用が困難です。
専業主婦家庭は、共働き世帯に比べ、周囲からのヘルプが得られにくく、孤立感等を抱える母親が、24時間小さい子どもと一緒にいることで虐待のリスクを高めています。
全ての家庭が保育園を利用できるように「保育の必要性認定」を撤廃し、家庭に合わせた頻度で週1〜2日でも保育園を利用可能とすることを要望します。
【問題背景1:高い虐待リスク】
保育園にも幼稚園にも預けられず、社会と接点を持たない児童(無園児)は多く、3歳以上でも5万人います(下記図参照 )
(厚生労働省「地域における保育所・保育士等の在り方に関する検討会(第1回)」資料3)
最新の報告によると、1年間の子どもの虐待死事例(57人)では、「0歳」が 28 人(49.1%)で最も多く、「2歳以下」の割合が34 人(59.7%)と半数を超える状況です。無園児率の高い低年齢で深刻な事例が多く発生しています。
また、子どもの虐待死による実父母の就業状況の事例では、実母は「無職」が 21 例(有効割合 48.8%)、実父は「フルタイム」が 24 例(同 82.8%)で最も多い結果が出ており、専業主婦世帯で多くの虐待事例が起きていることが分かります。
【問題背景2:出身家庭に起因する機会格差が生じている】
日本の既存研究(*1)によれば、親が心理的・経済的に余裕がない場合、子どもが低学歴になりやすく、成人後も、非正規雇用・低所得・相対的貧困率が高まるという結果が出ています。現代日本社会で子どもの「出身家庭に起因する機会格差」が存在していることが分かります。
*1 阿部彩. (2011). 子ども期の貧困が成人後の生活困難(デプリベーション)に与える影響の分析. 『季刊社会保障研究』46(4), 354-367
経済協力開発機構(OECD)の報告では、人生の最初の数年間は、個人の将来の能力開発と学習の基礎となるため、質の高い「保育・幼児教育」の投資は、「出身家庭に起因する機会格差」を軽減する効果があると認めています。
【問題背景3:一時預かりはほとんど機能していない】
保護者の育児疲れや、育児不安を軽減したいときに利用できる「一時預かり」もありますが、導入に消極的な自治体があったり、補助金が十分ではないために事業が広がりづらく、供給量が不足しています。令和元年度の利用実績で見ると、未就園児1人当たりでは1年間に約3日の利用にとどまっています。
一方で、ある研究では、働く母親と比較して、専業主婦の育児ストレスが高く、ストレスの主な要因として「子どもと離れた一人の時間がない」「一人きりの子育て、社会からの孤立を感じる」という結果が出ています(下表参照)。専業主婦世帯において、母親が育児から一時的に離れたり、自分以外の人と子育てをしたいというニーズが高いことが分かります。
「一時預かり」では、利用したい時に利用ができず、複数施設や他のサービスをかけもちで利用するなど、子どもの情緒や発達面を考えても、親子にとって望ましい姿とはいえない状況です。
【要望】
保育園や幼稚園は、子どもにとっては大きなセーフティーネットとなりえます。
低所得世帯でも給食があることで栄養をカバーでき、また、養育不全世帯ならば、虐待やネグレクトの兆候に、いち早く気づくことが可能です。発達障害等の傾向も、保育士や巡回訪問等の専門職が気づき、適切な療育や支援に早期に繋ぐことができます。
保護者にとっても、様々な専門家(保育士・看護師・栄養士等)に子育て不安や相談を定期的に行うことができ、安心して子育てをすることができます。
また現在は、ポスト待機児童時代に入り、全国の保育所等の定員充足率は年々低下しております。 ※定員充足率=利用児童数÷定員
これまではキャパがなく受け入れられなかった必要要件を満たしづらい家庭も保育所等で受け入れられるようになってきています。
施設別の定員充足率 ※( )は前年度比
参考:厚生労働省Press Release「保育所等関連状況取りまとめ(令和3年4月1日)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11922000/000821949.pdf
ついては、全ての家庭が保育園を利用できるように「保育の必要性認定」を撤廃し、家庭に合わせた頻度で週1〜2日でも保育園を利用可能とすることを要望しました。
2.地域の実態に合わせて事業者が柔軟に利用定員変更ができるよう、自治体へ通知を出してください
上記の施設別の定員充足率にもあるとおり、特に地域型保育事業では定員充足率が低下しています。
地域の人口動向から、今後も定員が埋まらない状況が予想されたため、東京都某区に利用定員変更を相談したところ、「一律受付していない」という回答で、取り扱ってもらえませんでした。
一方、国からの通知では、「事業者から利用定員変更の届出があった場合、町村は、届出を受理せず利用定員の減少を認めないといった対応を取ることはできません。」「市町村においては、申請者との意思疎通を図り、その意向を十分に考慮しつつ、当該施設での最近における実利用人員の実績や今後の見込みなどを踏まえ、適切に利用定員を設定していただく必要がある」と示されています。
ポスト待機児童時代に入り、恒常的に利用定員を下回る受入となっている場合、経営を維持するために、利用定員数の変更を希望する事業者が増えてくると思われます。
事業者が地域の実態に合わせて柔軟に利用定員数を変更できるよう、自治体に向けて改めて通知を出してくださいと要望しました。
3.高卒でも実務経験なしで保育士試験を受けられるようにしてください
平成3年4月1日以降に高校を卒業した人が保育士試験を受験するためには、児童福祉施設(保育所、乳児院等)で2年以上かつ2,880時間以上の実務経験が必要です。
保育とは全く関係のない学科でも、短期大学又は大学を卒業していれば、保育の実務経験が全くなくても保育士試験は受験できます。
短期大学や大学を卒業していても保育の実務経験がなければ、高卒の人と保育に関する知識量は同等なはずです。2年以上かつ2,880時間以上の実務経験は現実的に非常に厳しく、高卒の人は保育士になりたくても諦めてしまうこともあります。
保育士の人材不足が問題になっている中、できる限り保育士になりたいと思う人に門戸を開くべきです。高卒の人も実務経験なしで保育試験を受けられるようにしてくださいと要望しました。
4.保育施設の種別変更に伴うルールの明確化をしてください。
保育施設には、認定こども園、認可保育所、小規模保育所、企業主導型保育所、認証保育所などの種別があり、これらの種別を変更して地域の保育需要に合わせて最適化していく施設も今後増えてくると思われます。
ですが、保育施設の種別変更を促進する自治体もあれば、全く取り扱わない自治体もあり、対応にばらつきが生じています。事業者が窓口で問い合わせた際も、国の制度でできないと断言する自治体もあり、他自治体の例などを示す形で交渉をするなどして事業者に負担がかかっています。
自治体に向けて、保育施設の種別変更についての取り扱いルールやFAQ等を通知してくださいと要望しました。
どのような状況下であれば種別変更が可能なのか明確化することで、各事業者も今後の事業運営に見通しが立てやすくなります。
<変更例>
地域型保育事業から認可保育・認定こども園へ
認可外から認可保育・認定こども園・地域型保育事業へ
企業主導型保育事業から認可保育・認定こども園・地域型保育事業へ
5.企業主導型保育事業に対する指導・監査の効率的な運用をしてください
企業主導型保育事業に対する指導・監査は、その実施機関である公益財団法人児童育成協会により、以下の指導・監査等が実施されることとなっています。
児童育成協会による指導・監査
専門的財務監査
巡回指導
専門的労務監査
企業主導型保育事業は認可外保育施設であるため、各自治体による認可外保育施設立入調査が実施されることとなっています。さらに自治体によっては、巡回指導も行っています。
上記全ての指導・監査の実施にあたって、企業主導型保育事業は、事前の書類提出や、監査資料の準備等に多くの時間を割いています。
児童育成協会による指導・監査で求められる内容と、認可外保育施設立入調査で求められる内容については、そのほとんどが重複しています。巡回指導についても、同様に目的や実施内容が重複しています。
概ね、公益財団法人児童育成協会が実施している指導・監査で、認可外保育施設立入調査の内容を網羅出来ていると考えられます。
公益財団法人児童育成協会が実施する指導・監査と、各自治体が実施する認可外保育施設立入調査の内容を精査いただき、重複する指導・監査内容については、一元化してくださいと要望しました。
6.企業主導型保育事業も地域型保育事業の連携施設として認めてください
企業主導型保育事業は、地域型保育事業の連携施設としては認められていません。
一方で、すべての地域型保育事業は令和7年3月31日までに連携施設を確保しなければならない状況です。地域により差はあるものの、特に小規模保育事業の連携施設の確保が困難なケースが存在しています。
企業主導型保育事業においては、3歳児~5歳児の受入に余裕があり、地域型保育事業の連携施設としての保育の受け皿と成り得る状況です。
※ 以下数値は、2021年11月12日 児童育成協会公表資料に基づき集計
https://www.kigyounaihoiku.jp/info/20211112-02
〔保育施設在籍児童総数〕
乳児 : 9,814人(充足率 50.4%)
1・2歳児 :41,201人(充足率 81.6%)
3歳児 : 6,150人(充足率 64.7%)
4・5歳児 : 6,842人(充足率 52.1%)
3~5歳児総数 :12,992人(充足率 57.4%)
ついては、3歳児〜5歳児の受入が可能な企業主導型保育事業が、地域型保育事業の連携施設 として設定できるよう検討くださいと提言しました。
7.虐待を未然に防ぐために「虐待予防サービス制度」を創設してください
虐待事件を未然に防ぐために、全国のリスク家庭(*2)に支援を届けること(アウトリーチ)が必要ですが、ほとんど実現していません。
*2 リスク家庭:虐待のリスク要因(貧困、ひとり親、若年出産、子どもの障害、親の障害・疾病、乳幼児健康診査非受診等)がある家庭(厚生労働省「子ども虐待対応の手引き」参照)
その大きな理由が、虐待予防に関しては、補助事業しかなく、サービス制度が存在していないことが挙げられます。
補助事業の場合、手挙げした自治体でのみ実施されるため、手挙げしない自治体の住民には全く支援が届きません。また、原則単年度予算であるため、財源も不安定です。
一方、介護や障害福祉の分野では、介護保険制度や障害福祉サービス制度といった「サービス制度」が存在するため、全国一律でほぼ永続的なサービス提供が可能になっています。
虐待予防の分野においても、全国一律で、迅速に支援を届けられるように、新たにサービス制度(虐待予防サービス制度)を創設していただきたいと提言しました。
【虐待予防サービス制度】
国において、制度作り(事業者要件、リスク家庭の範囲等を規定)、サービス報酬(公定価格)の決定、予算確保等を行う。
地方自治体は、当制度に従って、事業者指定、リスク家庭ごとの支援プランの作成、事業者への報酬支払い等を行う。
事業者は、支援プランにそって、食料提供・学習支援を通じた見守り、保育所での定期預かり・相談支援等を行う。
詳細は内閣府ホームページをご覧ください。
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