2022/12/8に開催された内閣府「子ども・子育て会議(第63回)」における、駒崎理事の提言をご紹介いたします。
◎保育士の柔軟な働き方を可能にし、保育人材確保を後押しして下さい。
令和4年4月の保育士の有効求人倍率は1.98倍で、全職種平均の1.17倍と比べると、依然高い水準で推移しています。保育園は慢性的に人手不足で、特に常勤保育士の採用難が続いています。さらにコロナ禍により、今まで以上に厳しい状況になっています。
その理由として、保育士の働き方が早朝や遅番勤務もあり家事育児との両立が困難であることなどが挙げられます。またコロナ禍では、在宅勤務などの柔軟な働き方ができない仕事が敬遠されるなどの実態があります。
一方、保育士登録されているが保育施設等で従事していない「潜在保育士」は、2018年時点で95万人*1おり、その数は年々増加しています。
*1 保育士の現状と主な取組(令和2年8月24日)P22 保育士の登録者数と従事者数の推移(https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000661531.pdf)
株式会社野村総合研究所による2018年の調査*2では、
・潜在保育士のうち約6割が今後保育士として働く意欲を持っていること
・就労意欲を持つ潜在保育士の3人に2人は、働く上で「勤務時間や勤務日など希望に合った働き方」を最も重視していること
がわかりました。
*2 潜在保育士の6割が保育士として就労を希望~「勤務時間や勤務日など希望に合った働き方」を最も重視~(https://www.nri.com/jp/news/newsrelease/lst/2018/cc/1003)
厚労省の調査*3でも、過去に保育士として就業した者が再就業する場合の希望条件として、「勤務時間」「勤務日数」が上位にきています。
*3 保育を取り巻く状況について P53 過去に保育士として就業した者が再就業する場合の希望条件(複数回答)(https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000784219.pdf)
常勤保育士を確保するためには、保育現場で、保育士のニーズに合わせた多様な働き方を選択できるようにする必要があります。
しかし、現在、常勤保育士の多様な働き方が認められていません。
厚労省では「1日6時間未満又は月20日未満勤務」の保育士を短時間勤務の保育士としています。よって、多くの自治体では、常勤保育士を「1日6時間以上又は月20日以上勤務」と解釈して運用しています。「1日8時間 週4日(月16日)」勤務する人がいた場合、「1日6時間 週5日(月20日)」の人よりも合計勤務時間は多くなるにも関わらず、前者は常勤保育士とみなされません。
今年10月には、大手保育事業者が週休3日(週4勤務)の正社員の導入を始めましたが、週休3日では常勤保育士の要件を満たさなくなることが課題となっています。
2022年の「骨太の方針」*4においても、多様な働き方の推進を目的とし「選択的週休3日制度」の普及を図ることが示されています。
*4 経済財政運営と改革の基本方針 2022(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2022/2022_basicpolicies_ja.pdf)
保育業界においても、多様な働き方を推進し、保育人材の確保を後押しして下さいと要望しました。
例えば、自治体に向けて「常勤」の定義を改めるように以下のとおり通知を出してくださいと提言しました。
現在:1日6時間以上かつ週5日(月20日)以上
→変更後:月120時間以上
◎保育所で子ども食堂等が実施できるよう、ガイドラインを作成し、保育園の多機能化を推進して下さい。
保育所保育指針において、保育所は、通所している児童の保育を行うだけでなく「地域の子育て支援の拠点」としての役割を担うこと*5とされています。厚生労働省は、自治体に対し「多様な社会参加への支援に向けた地域資源の活用について(通知)*6」を発出し、福祉ニーズの多様化・複雑化、人口減少といった福祉分野を取り巻く状況が変化する中、包括的な支援を提供する仕組みを推進していくため、福祉サービス事業所等を活用することとしています。そして、その例として、「保育所等の空きスペースを活用して、地域の子育て世帯等が集う場等を設ける」ことを挙げています。
*5 保育所保育指針 第1章 1ー(1)ーウ(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00010450&dataType=0&pageNo=1)
*6 多様な社会参加への支援に向けた地域資源の活用について(通知)P1,P9 (https://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/attachment/134594.pdf)
それにも関わらず、在園児の保育に関わること以外の活動に対し、自治体は、「目的外使用に該当する」として、保育所を通常の保育以外で利用することに懸念を示したり、厳密な別管理を求める等、保育園の多機能化を阻んでいます。
例えば、保育所はキッチンもあり、子どもにとって安全な環境もあることから、地域の孤立しがちな親子に対し、子ども食堂を行うのに大変適しています。実際に、某市において認定NPO法人フローレンスが「ほいくえん子ども食堂」を行ったところ、非常に反響があり、母子生活支援施設入居者を含む、地域の多くの親子にご利用いただいています。
しかし、別の自治体で同様に子ども食堂を実施しようとしたところ、保育所の運営に係る補助金の対象ではないという判断のもと、保育施設の調理室を使用することに懸念を示されたり、調味料や光熱費を保育園運営と厳密に分ける等の非効率な運用を求められています。
保育所が、在園児だけでなく地域に向けて開かれることで、孤独と孤立に陥りやすい無園児家庭等ともつながるきっかけになることが期待できます。
また、大半の保育所は、日曜日や土曜日夜は使われておらず、平日にも、使っていないスペースを抱える保育所は少なくありません。アイドリングしている保育所内スペースを、地域のNPOや習い事の先生、親グループ等に貸すことができれば、保育所がコミュニティの結節点になっていく未来が描けます。
地域の社会資源として保育所の活用を推進するため、ガイドラインを作成してください。上述の通知は、広く福祉サービス事業所の多機能化についての発信であり、自治体の認知も高くありません。保育所は様々な親子のための施設であり、入所しているこどもとその保護者のみならず地域のすべての子どものために活用すべきです。自治体が保育所の活用を前向きに検討できるよう、保育所の多機能化に特化したガイドラインを作成してください、と要望しました。
◎保育所の人員配置基準を見直してください
2022年11月に大阪府岸和田市で、保育所に送り届けるのを忘れられた2歳の女児が、父親の乗用車内で死亡したことを受け、小倉こども政策担当大臣は会見で「保育園の方で登園管理をしてくだされば救えた命だと思っている。園の責任は重い」と述べられました。
登園時の出欠確認を確実に行う、ふだんの登園時間を過ぎても子どもが来ない場合は保護者に電話で確認する等、園が定められた手順を遵守していれば、防げた事案であることは事実です。
しかし同時に、大臣は会見で、保育所などの現状について「かなり人繰りが大変で、ご苦労されているという認識だ。担当大臣として現場の人員に余裕が出るようしっかり要望して、少しでも現場の負担が軽減できるよう努力を続けたい」とも述べられました。
現在、日本の保育所で1人の保育士が見る児童数は、海外と比較しても多すぎであり、きめ細やかな保育を行える状況とは言えません。特に、3歳児配置改善加算は導入されたものの、人員配置基準として3歳児は1人の保育士が20人、4歳以上児は30人となっていて、目を行き届かせるのは非常に困難な児童数です。
人員配置基準(保育士1人当たりの年齢別児童数)
*7さらに、子ども子育て新制度施行後、保育の記録、保存書類の作成、会計処理財務諸表への対応、第三者評価、請求業務、各種契約業務、監査対応など事務処理が明らかに増大し、保育所の職員の負担は増すばかりになっています。
*7 (日本の人員配置基準について)「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」第33条第2項
(海外の人員配置基準について)株式会社シード・プランニング「諸外国における保育の質の捉え方・示し方に関する研究会 (保育の質に関する基本的な考え方や具体的な捉え方・示し方に関する調査研究事業) 報告書」(平成31年3月29日)
https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000533050.pdf
今後このような悲しい事故を起こさないためにも、保育現場の負担軽減が必要です。1人の保育士が見る児童数を少人数化し、安全で質の高い保育を提供できるように、人員配置基準の見直しを行ってください、と要望しました。
また、事務量増加に対する正規職員雇用補助や専門家に委託できる補助の創設、事務量を減らすための対行政書類の抜本的な簡素化、押印必要書類の削減、巡回指導や監査の改善も行ってください、ということも併せて要望しました。
詳細は内閣府ホームページをご覧ください。
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