2024/2/19に開催されたこども家庭庁「子ども・子育て支援等分科会(第5回)」における、駒崎理事の提言をご紹介いたします。
◎こども誰でも通園制度について
(1)委託料の見直しを行ってください
(2)事業者による手挙げを可能にしてください
(1)委託料の見直しを行ってください
【背景】
- 12月7 日の事業者説明会において、委託料はこども一人1時間あたり850円を基本とすることが公表されました。利用者負担分(1時間あたり300円)を含めても、事業者の収入はこども一人1時間あたり1,150円です。事業者にとっては、事業への手挙げを躊躇う水準です。
こども家庭庁「こども誰でも通園制度(仮称)の本格実施を見据えた試行的事業に関するオンライン説明会」(令和5年12月7日)説明資料より
- この金額は、週6日、朝から晩まで隙間なく「こども誰でも通園児」の利用を確保し、空き定員枠をすべて埋める前提なのではと懸念しています。
- 乳児9名をお預かりするケースで試算したところ、仮に空き定員枠が7割程度埋まった場合(=稼働率7割)でも、年間収入は1,700万円弱です。
【計算式】1,150円/時(委託料850円/時+利用者負担分300円/時)✕8時間/日(開所時間)✕24日/月(週6日預かり)✕12ヶ月✕9名✕70%(稼働率)=1,669万円/年
- それに対して費用は、園長や栄養士を含めずに、保育士3名のみを雇用するとしても年間1,500万円程度かかります(1名あたり500万/年✕3名)。それ以外にも家賃・光熱費などの運営費に加え、通常預かりに対して事務処理が増えることも考えるととても採算が取れません。
- 例えば20/100地域の小規模保育事業所で9名の乳児を短時間認定で預かる場合、年間収入はおよそ3,200万円です(299,180円/月✕12ヶ月✕9名)。こども誰でも通園制度を利用して預かりを行うと、通常預かりに対して収入が半減してしまうことになります。
- さらに「稼働率7割」という前提も現実的ではありません。類似の既存事業である一時預かり事業の稼働率を見ても、中野区では43%という報告もあり、横浜市の乳幼児一時預かり事業公募資料でも稼働率は5割として試算しています。通常預かりと異なり、当日キャンセルや1日の中で空きがある時間帯があるため、利用者ニーズがあっても稼働率は低くなる傾向にあるのです。
- 近年、待機児童問題が解消に向かう中、空き定員が出る保育所が増加しています。こども誰でも通園制度で適切な水準の委託料が設定されれば、空き定員の出た保育所でも事業を継続することができ、保育の受け皿の確保に繋がります。
【要望】
- この素晴らしい制度を全国の保育施設に広め、できるだけ多くの子どもに保育を届けるため、委託料見直しに向けた継続的な議論をお願いします。
(2)事業者による手挙げを可能にしてください
【背景】
こども家庭庁案では、施行的事業の実施主体は市町村とされており、事業導入のためには市町村の手挙げが必須となっています。
こども家庭庁「こども誰でも通園制度(仮称)の本格実施を見据えた試行的事業に関するオンライン説明会」(令和5年12月7日)説明資料より
- 試行的事業においては、事業者が「こども誰でも通園制度」を実施したくても、自治体が後ろ向きな場合は実施することができません。実際に、NPO法人 全国小規模保育協議会の中でも、自治体が手挙げをしないために実施を断念した事業者が存在します。
- 令和8年度からは「全国すべての自治体で実施予定」と認識しておりますが、各自治体の判断によって実施事業者・施設類型・対象者などが制限される懸念があります。
【要望】
- こども誰でも通園制度を全国のできるだけ多くのこどもたちに届けるため、本制度では事業者による手挙げを可能とし、より多くの園で制度が実施できるようにしてください。
◎企業主導型保育事業について
(1)利用定員の1割以上を自社従業員枠にしなければいけないルールを見直してください
(2)設置事業者を交えた定期的な議論の場を設定ください
(1)利用定員の1割以上を自社従業員枠にしなければいけないルールを見直してください
【背景】
- 企業主導型保育事業実施者(保育事業者型事業の事業実施者を除く)は、施設の利用定員の1割(小数点以下切り上げ。以下同じ)以上を自社従業員枠の定員として設けなければならないこととなっています。
- 自社従業員枠の定員を1割以上設けなければならないこのルールは、多くの従業員を抱える設置事業者においてはそれほど大きな問題とはならないことが想定されますが、従業員数の比較的少ない設置事業者においては大きな障害となります。
- 自社従業員の利用が1割に満たない場合、保育定員の空きが常時発生することになり、提携企業枠や一般枠で保育ニーズが発生しても、このニーズに応えることができなくなり、保育園という社会的な資源が有効活用されないこととなってしまいます。
【要望】
- 企業主導型保育事業における利用定員の1割以上を自社従業員枠にしなければいけないルールの見直しを検討してください。
(2)設置事業者を交えた定期的な議論の場を設定ください
【背景】
- 企業主導型保育事業は、平成28年度の制度創設以降、政府の「子育て安心プラン」等に基づき、定員11万人分の受け皿整備に向けて取り組まれ、この定員11万人分の定員整備が令和4年度中に概ね達成されました。
- 全国的に待機児童数が減少している現状を鑑みると、企業主導型保育事業は、今後いかに安定的に事業継続を行うか、また企業主導型保育事業を「子育て支援」や「少子化対策」にいかに活用するかといった発展的な事業継続の議論が必要となることが想定されます。
- 企業主導型保育園を安定的に事業継続していくためには、設置事業者の健全な経営が大前提です。一方、設置事業者が健全な経営を行っていたとしても、制度そのものやその運用が非効率だと、事業者の財務的な疲弊や保育園(保育士)に過度な業務負担が課されるような事態を招きます。
- 企業主導型保育事業に関わる事業点検・評価の場として「企業主導型保育事業点検・評価委員会」が設置されており、定期的な評価点検が行われていますが、この委員会では安定的な事業継続の議論はなされているものの、発展的な事業継続の議論はなされていないのが現状です。
- 企業主導型保育事業の設置事業者の中には、新しい発想や、制度運用上の課題を解決するためのアイデアを持ちえた事業者がたくさん存在しますが、発展的な議論を行うための有効な場がありません。
【要望】
- 全国に約4,500か所ある企業主導型保育園をいかに有効活用していくかの議論や、安定的かつ発展的に事業継続を行うための新たな仕組みについての議論、制度運用上の課題をいかに解決していくかの議論を行っていく、設置事業者を交えた定期的な議論の場を設定してください。
企業主導型保育事業の継続・発展に向け、引き続きご検討をよろしくお願いします。
◎3-5歳小規模保育事業実施に制限をかけないでください
「地域の実情を勘案して必要であるとき」という制限を撤廃し、自治体の誤った判断によって3-5歳小規模保育事業の導入が妨げられないようにしてください。
【背景】
- 「【参考資料2】子ども・子育て支援等分科会における議論の整理」の資料中に、小規模保育事業における3歳以上児の受入れについて「地域の実情を勘案して必要であるときは、3~5歳児のみの小規模保育事業の実施を可能とする」と記載があります。
「【参考資料2】子ども・子育て支援等分科会における議論の整理」
- しかし必ずしも自治体が、小規模保育事業の必要性を適切に評価できるとは限りません。
- 例えば人口減少地域では、定員確保が難しいため廃園の危機に直面している大規模保育園が多く存在します。既存の大規模保育園が廃園すると地域の保育の受け皿が一気になくなってしまいますが、小規模園に転換すれば存続できる場合もあります。
- そういったケースにおいても、自治体は状況を認識せずに単純に「待機児童数が少ないため必要なし」と判断してしまう恐れがあります。
【要望】
- 「地域の実情を勘案して必要であるとき」という制限を撤廃し、自治体の誤った判断によって3-5歳小規模保育事業の導入が妨げられないようにしてください。
◎保育所等におけるICT化推進事業の対象を、医療的ケア児に限定しないでください
「保育所等におけるICT化推進事業」の対象を「医療的ケア児”等”を受入れる保育所」とし、様々な障害特性を持ったこどもたちが広く、コミュニケーションツールの補助を受けられるようにしてください。
【背景】
- 「【資料6】保育現場でのDXの推進について」において、「保育所等におけるICT化推進事業」の対象施設は「医療的ケア児を受け入れる保育所」に限定されており、重度心身障害児などの障害児は対象外となっています.
「【資料6】保育現場でのDXの推進について」
- しかし、コミュニケーションツールとなるICT機器を必要とするこどもは、医療的ケア児に限りません。重度心身障害児をはじめ、視覚障害児・聴覚障害児などの中にもコミュニケーションを取るのが難しいケースはあり、それぞれに適した支援を必要としています。
【要望】
- 対象を「医療的ケア児“等”を受入れる保育所」とし、様々な障害特性を持ったこどもたちが広く、コミュニケーションツールの補助を受けられるようにしてください。
詳細はこども家庭庁ホームページをご覧ください。
子ども・子育て支援等分科会: こども家庭庁(リンク)
子ども・子育て支援等分科会(第5回)会議資料はこちら