2023/11/21に開催されたこども家庭庁「子ども・子育て支援等分科会(第3回)」における、駒崎理事の提言をご紹介いたします。
◎3~5歳児の小規模保育事業における連携施設の確保について
【背景】
会議資料の中に、「3~5歳児のみを受け入れる小規模保育事業についても、連携施設の確保を求めることとする。」と記載があります。
これまでの小規模保育所は3歳未満児を対象としていたため、卒園後の受け皿として連携施設の確保が必要であったと認識しています。
しかし3~5歳児対象の小規模保育所の場合は当然卒園後の受け皿確保の必要はなく、事業者の状況によっては「連携施設の園庭使用」や「連携施設との合同運動会の実施」のニーズが大きくない場合もあります。
【要望】
無理やり連携施設との合同運動会や園庭使用を小規模保育に強いるのではなく、保育園に限らず、こども家庭センターや地域の子育てひろば、児童発達支援センターなど、その家庭と接点を持つ様々な施設や支援事業者を「連携施設・支援事業者」として設定できるようにしてください、と要望しました。
◎自治体による運用で、小規模保育事業を対象から除外している事業について、小規模保育事業も対象である旨を再周知してください。
【背景】
国の制度上は、小規模保育事業も対象施設に含まれているにも関わらず、自治体の運用によって対象外になってしまっている事業が複数存在します。
例1:地域子育て支援事業
子育て世帯の孤立感や負担の解消のため、地域の子育て中の親子の交流促進や育児相談等を実施する「地域子育て支援事業」の対象施設は「概ね10人程度の母子が集える場所を持っていること」と定められており、特に小規模保育事業は対象外という記載はありません。
しかし、一部の自治体では認可保育園・認定こども園のみが実施対象となっています。
例2:医療的ケア児保育支援事業
「医療的ケア児保育支援事業」は、保育所等における医療的ケア児(たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童)の受け入れを支援することを目的として、看護師の配置や保育士の医療的ケア対応研修の受講支援を行う取り組みです。本制度の対象施設は「保育所、認定こども園、家庭的保育事業所、小規模保育事業所及び事業所内保育事業所」であり、小規模保育事業所も含まれています。
しかし、一部の自治体では認可保育所から優先的に導入を開始しているため、現時点では小規模保育事業所が対象外となっています。
【要望】
自治体による運用で、小規模保育事業を対象から除外しているこれらの事業について、小規模保育事業も対象に含む旨を改めて自治体に周知してください、と要望しました。
◎医療的ケア児保育支援事業の対象に、居宅訪問型保育も加えてください。
【背景】
保育所等における医療的ケア児の受け入れを支援する「医療的ケア児保育支援事業」の対象施設は「保育所、認定こども園、家庭的保育事業所、小規模保育事業所及び事業所内保育事業所」であり、障害の特性から通園することが難しい医療的ケア児に対して保育を提供する居宅訪問型保育は対象外となっています。
居宅訪問型保育で医療的ケア児を保育する場合、児の体調管理や緊急時対応のために、保育士に加えて医療的ケアに対応できる看護師を派遣する必要があります。しかし、現状の報酬体系では看護師配置分のコストを賄うことができません。
また、保育士が受講する必要のある喀痰吸引等研修に関する補助も無いため、受講にかかる費用は事業所の持ち出しとなっています。
このまま居宅訪問型保育に対する支援不足が続けば、通園が難しい障害を抱える医療的ケア児の保育の受け皿がなくなってしまいます。
【要望】
「医療的ケア児保育支援事業」の対象に居宅訪問型保育を入れてください、と要望しました。
◎こども家庭庁ベビーシッター券について
【背景】
「こども家庭庁ベビーシッター派遣事業割引券」は、企業の従業員がベビーシッターを利用する際に、1回あたり4,400円(1枚2,200円×2枚)、1ヶ月最大52,800円(1枚2,200円×24枚)の補助が受けられる券です。
仕事と育児の両立に悩む子育て世帯にとって大変有意義な支援であり、導入企業・利用枚数ともに右肩上がりとなっています。しかし、制度・システムにいくつか解決すべき課題があるため、4点の要望を行いました。
【要望】
1)予算ショートによる年度途中の発行停止はやめてください
本年10月2日、割引券の発行枚数が予算の上限に達したとして新規発行が停止され、約2週間後の10月17日に発行が再開されました。年度途中での発行停止は、利用者に金銭的な不安を与えるだけでなく、ベビーシッター事業者の事務工数も増加させます。
今後仮に割引券の発行部数が予算を上回った場合は、発行停止ではなく追加予算で対応してください、と要望しました。
2)利用企業ごとの「上限ルール」を撤廃してください
令和5年度より、国から各企業への発行可能枚数に「上限ルール」が設定されました。その企業全体で所有する割引券の8割を使い切らないと次の申込みができないというものです。
資料:こども家庭庁「企業主導型ベビーシッター利用者支援事業について」
この上限は企業単位に設けられているため、たとえベビーシッター券を使い切った人であっても、社内に使用しない人が一定数存在する場合は翌月の必要枚数が貰えません。「上限ルール」を撤廃し、本来の各個人の利用可能枚数(24枚/月)を使用できるようにしてください、と要望しました。
3)用途を制限せず、習い事の送迎にも使えるようにしてください
現在は、割引券の用途が『家庭内の保育・世話、ベビーシッターによる保育園の送迎』に限定されています。
資料:こども家庭庁「ベビーシッター派遣事業実施要綱」(令和5年5月)
しかし、本事業の目的が「仕事と子育てとの両立に資するこども・子育て支援の提供体制の充実を図ること」であることから考えると、習い事を除外する必然性はないと考えます。使用用途を保育施設への送迎に限らず、習い事の送迎時も使用できるようにしてください、と要望しました。
4)交通費や会費も対象にしてください
現在対象となる料金は「純然たるサービス提供対価」のみであり、交通費や会費は対象外となっています。
しかし、交通費はベビーシッター利用時には必ず発生するものであり、会費(月会費、年会費、更新料)も病児保育などの会員サービスの多くに付随する費用です。交通費や会費(月会費、年会費、更新料)などの利用にかかる費用も対象にしてください、と要望しました。
5)企業・利用者にとって使いにくいシステムを改善してください
現在のベビーシッター券のシステムは、企業の人事担当者の事務負荷が高く、利用者・ベビーシッター事業者にとっても非常に利便性が低い設計になっています。企業・利用者にとってメリットの大きい制度であるにも関わらず、事務負荷の高い仕組みであるために導入のハードルが上がっている状況を改善してください、と要望しました。
◎「こども誰でも通園制度」に関する6つの提言
2024年度から、本格実施を見据えた試行的事業が実施される予定の「こども誰でも通園制度」について、保育事業者の立場から以下6点を提言しました。
(2)基礎自治体単位で利用時間を加算できる仕組みにしてください
(3)キャンセル時にも補助金を受取可能にしてください
(4)居宅訪問型保育も制度の対象にしてください
(5)高リスク家庭を預かるインセンティブがある仕組みにしてください
(6)親子通園は必須要件にしないでください
1)「0歳6ヶ月~」の年齢制限は廃止してください
【背景】
こども家庭庁案では、制度の対象年齢を「0歳6ヶ月~」に限定しています。しかし、0歳前半の時期ほど虐待リスクが高く、支援を必要としています。こどもの虐待死の約半数は0歳児です。
既存の制度として「産後ケア事業」や「一時預かり事業」はあるものの、ともに0歳前半のこどもの受け皿としては不十分です。
【要望】
「0歳6ヶ月~」の年齢制限は廃止してください(少なくとも保育園側が受け入れたいと言った場合においては、それを妨げないでください)、と要望しました。
2)基礎自治体単位で利用時間を加算できる仕組みにしてください
【背景】
会議開催時点(23.11月)のこども家庭庁案では、利用時間の上限を「月10時間」としていました。理由としては「全国の自治体で提供体制を確保するため」とご説明いただきましたが、全国の待機児童数や定員充足率には大きな地域間格差があります。
【要望】
地域ごとの保育園充足率に差がある現状も踏まえて、基礎自治体単位で利用時間を加算できる仕組みにしてください、と要望しました。
※24年1月、こども家庭庁が2026年度の全国展開の際は「月10時間以上を検討している」ことを明らかにしました!
3)キャンセル時にも補助金を受け取り可能にしてください
【背景】
現時点では、補助金に関する具体的な議論は深まっておりません。しかし、事業者としては補助金設計、特に利用者によるキャンセル時の補助金の受け取り可否について懸念しています。キャンセル時に補助金を受け取ることができないと、そのまま事業者の減収につながり、安定した運営継続が難しくなってしまいます。
【要望】
利用者の都合によるキャンセル時にも、国からの補助金が減算されない仕組みにしてください、と要望しました。
4)居宅訪問型保育も制度の対象にしてください
【背景】
重い障害などで地域の保育園等に通えないこどもに対し、保育士が家庭を訪問する「居宅訪問型保育」があります。しかし現状の案では、この居宅訪問型保育は制度の対象外になっています。障害のある子を持つ親の就労には困難が伴うため、就労要件のある通常の保育サービスを利用出来ない家庭は多く存在します。
【要望】
こども誰でも通園制度においても、障害児を置き去りにしないでください、と要望しました。
5)高リスク家庭を預かるインセンティブがある仕組みにしてください
【背景】
高リスク家庭(要支援・要保護家庭)とは、保護者もしくは児童、養育環境などに問題がある家庭や、今後放置すれば虐待の発生する可能性のある家庭を指します。こうした高リスク家庭は一般家庭よりも更に手厚い支援が必要です。事業者に対する追加補助がなければ、高リスク家庭の受け入れが進まないことが懸念されます。
【要望】
東京都保育サービス推進事業補助金のように、高リスク家庭預かりの際は事業者へケアニーズに応じた追加補助をつけてください、と要望しました。
6)親子通園は必須要件にしないでください
【背景】
保育園に慣れるまで時間がかかるこどもへの対応として、「親子通園」を事業者が積極的に取り入れるべきとする意見もあります。しかし、中には「親子通園」が適さないケースもあります。育児不安が強い、慢性的な睡眠不足に苦しんでいるなど、福祉的アプローチが必要な保護者もいます。
【要望】
保育園がそれぞれのご家庭に応じて最適な形を選択できるよう、親子通園はあくまで選択肢の一つとして用意してください、と要望しました。
◎看護師配置加算の設定について
【背景】
保育所で看護師を配置した場合の「看護師配置加算」について、一部の自治体では独自に設定しているものの、国の加算としては認可保育所・小規模保育所問わず設定されていません。
「医療的ケア児保育支援事業」では看護師配置に補助があるものの、自治体が手挙げをしていなければ補助対象になりません。また、保育所で看護師を必要としているのは医療的ケア児に限りません。CVカテーテルを付けている難病児など、医療的ケア児と健常児の狭間にいるこどもたちもいます。
そもそも、いわゆる「健常児」のみの保育所においても、嘱託医との連携、体調不良時の対応、園内の衛生管理や保護者に対する保育指導など、看護師の活躍の場は多岐に渡ります。
【要望】
保育所で看護師を配置した場合の「看護師配置加算」を国として設定してください、と要望しました。
詳細はこども家庭庁ホームページをご覧ください。
子ども・子育て支援等分科会: こども家庭庁(リンク)
子ども・子育て支援等分科会(第3回)会議資料はこちら