本レポートは、2022年10月22日に全国小規模保育協議会が実施したオンライン研修会について、内容をまとめたものです。当日参加できなかった会員様や、研修内容をもう一度おさらいしたい会員様に向けて、講演本編を詳細にまとめましたので、ぜひご熟読いただけましたら幸いです。
https://syokibohoiku.or.jp/topics/20220913
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■講師紹介
ご講演の講師は、全国小規模保育協議会創立メンバーであり、現・理事の駒崎弘樹氏。 また駒崎理事は、「訪問型病児保育」や「障害児保育」、「小規模保育」などの事業を通じて様々な社会課題を解決する認定NPO法人フローレンス(フローレンスグループ)の会長として、多方面で活躍されています。
ご講演のテーマは「これから保護者から選ばれる小規模保育園とは」。こちらのテーマに沿って、今後の保育園が担える機能と実践、そして直近の国(政策・制度)の動きについてお話しいただきました。
■子どもをとりまく状況・保育ニーズ はじめに駒崎理事は、近年の保育ニーズがめまぐるしく変わっていると説明します。かつては待機児童が多く、保育ニーズも非常に高い状況だったが、今後は減少していく流れであること。(マクロ的な視点では)少子化を原因として、5歳未満の子どもがどんどん減っている現状を語りました。
また別の原因として、待機児童の減少を提示。「保育園落ちた日本死ね」という衝撃的な言葉が注目を浴びた2017年は、26,081人もの待機児童がいた状況に対し、2022年は過去最少の2,944人にまで減少。2017年と比較して、およそ10分の1の数となります。
こうした背景に伴い、定員充足率(定められた定員に対して、実際にどれだけの子どもが入園しているかを表す指標)も変わってきたと話す駒崎理事。2020年には92.2%だった定員充足率が、2022年には89.7%と、90%を切る状況に。全体的な保育ニーズが下がる時代の流れに合わせて、保育所の定員充足率も下がっていく、つまり「空き定員」が広まっていくことになります。
■待機児童ゼロのシミュレーション
2019年以降、毎年同じペースで待機児童が減少した場合、待機児童がゼロになるのはいつか。駒崎理事は、具体的なグラフを使ってシミュレーションを提示。その結果、来年2023年にはゼロとなり、それ以降はどんどんマイナスになっていく。それに伴って、私たちの保育園の定員充足率も落ち続けていくと説明します。
待機児童数の規模は、東京都が最大数。その東京都においてさえ、おそらく来年には待機児童ゼロになるだろうという予測が示されます。東京都でさえ、現状では288人と300人を切っている状態。東京でゼロなら、全国的にはより顕著にゼロになってゆくだろうと駒崎理事は続けます。
また、理事が運営する小規模保育所「おうち保育園」でも、全国13園のうち定員割れとなっている園が多数あるとのこと。
https://mirai.florence.or.jp/ouchi/
おうち保育園の詳細はこちら
全国の保育施設の5割強が「このまま経営を維持できるか懸念がある」と考えているといいます。また、保育三団体の1つである日本保育協会(社会福祉法人 日本保育協会 https://www.nippo.or.jp/)が、「保育は供給過多の時代に入っている」とアナウンスしていることを根拠に、ポスト待機児童時代(待機児童問題の後に続く時代)に突入しているのだと、駒崎理事は語ります。理事にとっても、こうした状況は決して他人事ではありません。
■ポスト待機児童時代に保育所はどうあるべきか
先述したポスト待機児童時代に、我々保育所はどうあるべきでしょうか。みなさんと一緒に考えていきたい。駒崎理事は続けて問いかけます。そして小規模保育協議会が出した一つの方策(あたらしい保育ビジョン2030)として、保育園から「地域おやこ園」という、役割の抜本的な変更を提案しました。
地域おやこ園「4つのコンセプト」
1 自園の子だけでなく、地域のすべての子ども達に開かれた存自園の子だけ在に。
2 限られた子どもだけでなく、誰ひとり取り残されないように。
3 地域の中にあるだけでなく、自らコミュニティを生み出す装置に。
4 単体で存在するのではなく、ネットワークを形成するハブに。
では、地域おやこ園の具体的な機能、役割とはどのようなものか。駒崎理事は「多機能化」という言葉を使って説明を続けます。例えば、他のエリアの子どもの送り迎えも、既存のバスを利活用して引き受けられないか。また、病児や障害児など、健常児以外の多様な子どもたちも受け入れられないか。外国籍の子どもたちはどうか。虐待の危険性がある子どもをショートステイという形で預かれないか。出張・訪問保育、夜間保育の可能性はどうか。保護者に目を向けて、就労訓練や支援を行うのはどうか。相談支援やソーシャルワークも必要ではないか。
地域おやこ園の具体的なアイデアとして、その他、こども食堂の運営、産後ケア、コミュニティスペースとしての場の提供など、多機能化の一例が続々と紹介されていきました。中でも、子どもの権利についての発信や、子ども版ケアマネ事業(個々に合わせた保育所活用プランの提案)といった、新しい価値創造型のサービスも含め、これらの様々な機能がすべて保育園の中にあったらどうでしょうかと、再び問いを投げかけます。
保育園が、単に子どもを預けるという場から、総合的に子どもと子育て家庭の福祉を支える機関になっていく。そんな道筋が描けるのではないかと、駒崎理事は熱のこもった声で語り続けます。
■変えるべき5つの制度
このように多機能化することによって、保育園は地域おやこ園として、新しい子育て支援のインフラに生まれ変わることが可能となります。しかし駒崎理事は、少なくとも以下の制度を変えなければ、地域おやこ園の実現は難しいと言います。
1 「保育の必要性認定」の廃止 保護者が働いていることを基準に子どもをお預かりする保育の必要性認定ですが、保護者が働いていないご家庭、あるいは働けない事情のあるご家庭の子どもでも通えるようにし、保育園をすべての子どものための施設に変えていく必要があります。
2 「施設の目的外使用禁止」の撤廃 保育園の多機能化のためには、保育施設の目的外使用禁止の撤廃が必須。例えばこども食堂の実施には、自治体から目的外使用であると指摘されてしまう現状がある。こうした縛りを撤廃し、保育施設の中で様々な福祉を実践できるようにする必要があります。
3 「東京都保育サービス推進加算」の全国版を創設 保育園経営の中で、新しいことに取り組むうえで必ず課題となる予算の悩み。公定価格に含まれない活動にはなかなか手を出しにくい現実の中、実は東京都では、保育園の各種新しい取り組みに対して加算がつき、活動の予算にできる環境がある。この仕組みを全国にも広げていければ、より多くの保育施設が多機能化に踏み出せるものと考えます。
4 「小規模保育S型」と「特区小規模保育」の全国化 現在の小規模保育事業は、(A型、B型、C型いずれも)定員が6人以上となっているが、6人以下でも成り立つような、例えばS型(スモール型またはスペシャル型)を新設するなど、少子化や人口減少の中でも存続できる仕組みが必要です。
また保護者目線で見れば、小規模保育所の原則0歳~3歳までの期間しか預けられない制度的な縛りに不安を感じ、通園をためらわれる問題もありました。こうした不安に対しては、特例的に5歳児までの保育を行える「特区小規模保育所」が一部地域ですでに実践されており、これを全国的に普及させることによって0歳~5歳の子どもを、かつ6人以下の人数でもお預かりできる(経営的に成り立つ)仕組みを整えていきたいと考えます。
5 「保育士の多様な働き方」の許容 常勤保育士1名の配置としてカウントされるためには、現状では8時間×週5で合計週40時間の勤務が必要となっています。一方で週40時間を、10時間×週4勤務でも可能にできれば、朝パートや夜パートの人材確保に困らない保育園運営ができるものの、現状ではこの働き方が常勤としては認められないケースがあります。こうした働き方の制度改革ができれば、保育士の働き方に自由度が生まれ、労働条件に合う人を採用しやすくなり、安定した保育園経営が実現すると考えます。 駒崎理事は、こうした制度改正を国に発議・提案できること、これまでも実現してきた実績があること、会員の声を国に届けられることが、全国小規模保育協議会の強みであると熱弁しました。
■政策提言:事例01
共働き家庭のためだけの保育園から、「みんなの保育園」へ。
続けて駒崎理事は、現在行っている政策提言の中から、「保育の必要性認定」の廃止に向けた取り組みの事例を紹介。現行制度では、「基本は親が育ててください。ただしこの要件に合致した場合のみ、保育園に預けて良い」という内容になっている。つまり専業主婦やフリーランスのような、労働時間が一定基準を満たさない保護者の場合は子どもが保育園に通うことができません。
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/outline/index.html
内閣府 子ども・子育て支援新制度 制度の概要等 参考資料 Ⅴ.保育の必要性の認定・確認制度
とくに専業主婦家庭では、共働き世帯に比べて周囲からのヘルプが得られにくいため、孤独や孤立に陥りやすく、また虐待のリスクも高まるといいます。親の就労の有無を子どもは選ぶことができず、それによって専門的で質の高い保育を受けられるか否かに差が出てしまう現状は、子どもの権利の観点から見てもおかしいと、駒崎理事は憤ります。
来年2023年から施行される「こども基本法」では、子どもの権利が中心に置かれ、子どもが安全・安心に成長でき、子どもの最善の利益が実現されるように明記されている。この基本法に照らしてみても、保育園の在り方として、親の就労の有無によって子どもの権利が制限されることは、はたして正しいと言えるのでしょうか。
https://kodomokihonhou.jp/about/
子ども基本法
こうした背景を踏まえて、「保育の必要性認定」を改革し、すべての家庭が保育園を利用できるようにしたい。必ずしも毎日通う必要はなく、週1日や、2か月に1度からでも、その家庭に合わせた頻度で利用を可能にしたいと駒崎理事。その結果、子どもには2つの大きなメリットがあると説明します。
1 子どもにとってのセーフティネット
孤独な子育てで進行してしまう虐待やネグレクトの兆候に、いち早く気づくことができる。また保育園の給食によって、低所得世帯であっても子どもの栄養不足を補うことができる。
2 子どもの発達への好影響
乳児期や幼児期に質の高い保育を受けることが、子どもの知的発達や社会性の発達、とくに非認知能力(友達と仲良く遊べることや、やる気の充実、様々なことに対する好奇心などを支える能力)に良い影響がある。 誰もが保育園に通える社会の実現は、すべての子どもの非認知能力に良い影響を与え、子どもの発達を後押しすることができると駒崎理事は力説します。
■「みんなの保育園」に関するニーズ調査
「みんなの保育園」の実現に向けて、あらかじめ3つの疑問を想定し、大規模なアンケート調査およびリサーチを行いました。1つは、専業主婦世帯に子どもを預けたいニーズはあるのか。続いてニーズがあったとしても、既存の保育園にそうした子供たちを預かるキャパシティはあるのか。最後に財源はどうするのか、という問いです。
なお、ここでは未就園児を、「無園児」という言葉で表現しています。無園児とは、園に通っていない状態(無園)に加え、専業主婦家庭の子育てが孤独や孤立に陥りやすい問題から、周囲との縁が持てないこと(無縁)、また周囲からの支援が受けづらいこと(無援)の、3つの意味にかけた言葉であるといいます。
1 専業主婦世帯に子どもを預けたいニーズはあるのか。
アンケートでは、未就園児(無園児)を持つご家庭の、なんと過半数が定期保育サービスの利用を希望していることがわかりました。利用意向(利用したいという回答)については56%のニーズ。利用頻度については、週に1回~2回以内がもっとも多く、利用時間は3時間~5時間以内のニーズがもっとも高いという結果に。毎日長時間預けたいというよりも、時々短い時間でいいから預かって欲しいというニーズが専業主婦世帯にあることが、アンケートによって浮かび上がりました。
2 保育園に未就園児を預かる余裕(キャパシティ)はあるのか。
2022年現在、合計145万人すべての未就園児(無園児)を受け入れる保育園の空きがあるのかという疑問については、地域や学年区分を加味しなければ、週1利用を前提に受け入れが可能であるという調査結果が出ました。またその空き状況は年々大きくなるため、2025年には週2回利用を前提に受け入れ可能な状態となる見通しが立っています。
3 未就園児(無園児)を受け入れるための財源はどうするのか。
保育園の利用児童は、少子化によって今後ますます減少していくと予想されます。それに伴い、国の補助額が使われず浮いてくるため、保育園の補助額が減らされない前提に立てば、2028年には浮いた補助額とすべての無園児預かりに必要なコストが逆転。十分な受け入れの財源が確保できるという調査結果となりました。
専業主婦家庭にも子どもを預けたいニーズがあり、保育園にもそうした無園児を受け入れるキャパシティがあり、財源的にも確保が可能である。以上のことから、やらない理由はないとして政策提言を行った結果、こども家庭庁の2023年度概算要求に、「みんなの保育園」の第一歩となる提言が「モデル事業」として盛り込まれました。
https://syokibohoiku.or.jp/topics/20220916
全国小規模保育協議会の政策提言
このモデル事業は、1施設あたり700万円の予算を上限に、国が10/10の補助金を支援する制度。モデル事業に手を挙げるかどうかは、基礎自治体の考え方によります。空き定員がありモデル事業に挑戦したい保育園は、まず「このモデル事業に手を挙げてほしい」と自治体に働きかけていくのが良さそうです。
■フローレンスの野良モデル事業
ここで駒崎理事は、上記のモデル事業に先駆け、2022年4月からご自身のNPO法人フローレンス仙台支社において、完全自己資金でモデル事業(野良モデル事業と呼称)にチャレンジしていることを報告。内容はもちろん、保育園の空き定員を活用した無園児の定期預かりです。さらに9月からは東京都内でも同様のモデル事業を開始しています。
目的は、2023年度のモデル事業実施まで時間があるため、その間にモデル事業の効果検証を行うこと。そして、こども家庭庁や厚労省にいち早く検証結果を上げていくことで、よりスピード感を持った支援の後押しがしたいという思いからです。
野良モデル事業の利用者から集めたアンケートでは、定期預かり保育を利用することで、子育てに対する孤独や不安感が減少したという回答が80%に。また、子どもがかわいくてたまらないという回答が100%、子育ての悩みや不安が気軽に話せる先ができたという回答が80%、子育てが楽しくて幸せという回答が80%、子どもを怒鳴ってしまうことが減ったという回答が60%という結果に。定期預かり保育の利用が、子どもに対する愛情や、子育てに対する幸福感を増大させ、さらには虐待のリスクも低下させることがわかりました。
さらに、子どもが友達と仲良くできるようになったという回答が100%、まわりの物事に興味関心が強くなったという回答が80%の結果に。アンケートコメントでも、言葉が増えた、弟に優しくなった、今まで食べなかった食材を食べるようになった、好きなことやできることが増えたなど、子どものコミュニケーション能力や、知的好奇心の向上にも大きく貢献していることがわかりました。
保育を必要としている家庭は、親が働いている家庭だけではない、と駒崎理事。専業主婦家庭にとっても、また親だけではなく子どもにとっても、保育に触れることで本人の可能性をより延ばすことができる。保護者は働いていて当たり前というこれまでの保育の在り方から、マインドセットを変えていくことが重要だと付け加えます。
■実践紹介
1 おうち保育園すがも(東京都豊島区)の事例:
フローレンスが運営する「おうち保育園すがも」にて、2021年4月に事業を開始した一時預かり保育の事例を紹介。通年の小規模認可保育所と、一般型一時預かり事業を併設したことにより、不定期な一時預かりをお試しとして通年に移行するケースも増え、稼働率が上昇する好影響の相乗効果も生まれました。※一般型一時預かり事業とは、保育所の定員外で専用の一時預かり保育設備や保育士を配置して事業を行うこと。
2 おうち保育園かしわぎ(宮城県仙台市)の事例:
「おうち保育園かしわぎ」では、2022年4月から余裕活用型一時預かり事業を開始。一時預かりの仕組みを利用して、専業主婦家庭に向けた定期的な預かり保育をスタートさせました。余裕型は一般型に比べて単価が低く、採算の合わないケースは多いものの、空きを作らなくて済む利点に加え、専業主婦家庭から、今後の政策提言に生かせる様々なご意見やデータを集めることができるなどのメリットもあります。※余裕活用型一時預かり事業とは、保育所の空き定員分の設備や保育士を活用して一時預かり事業を行うこと。
3 おうち保育園こうとう台(宮城県仙台市)の事例:
「おうち保育園こうとう台」では、余裕活用型一時保育の仕組みを活用して、障害児保育を積極的に導入。「集団での保育は困難」であると、他の認可保育園に入園を断られたご家庭に寄り添い、こうとう台の入園枠を使って週3回の一時預かり保育で受け入れを行いました。その結果、母親は仕事に復帰することができ、この実績がメディアに取り上げられたことで、自治体にも障害児の積極的な受け入れを提言しやすい環境が生まれました。
4 おうち保育園南ながさき(東京都豊島区)の事例:
「おうち保育園南ながさき」では、外国籍労働者の多い繁華街(池袋)に隣接した地域であることから、外国籍対応保育を実施。一時期は定員12人中6人が外国籍の子どもたちというケースもありました。現在はネパールからの難民のお子さんをお預かりしています。
特徴的な取り組みとしては、簡単な表現やシンプルな文章、漢字にふりがなをふるなどした「やさしい日本語」を使ってプリント配布や情報発信を行うほか、ポケトークという自動翻訳機を導入(全園)。宗教上の戒律を冒さず食べることができるハラル食への対応や、外国籍家庭特有の相談事に対応するための社内研修も実施しています。
外国籍のご家庭では、行政からの資料などを読み込むことが難しいケースも多く、しかるべき制度や支援から抜け落ちてしまうこともある。また、親が劣悪な仕事を紹介されるなどの問題にも、保育園が支援を行えるよう各種専門機関との連携ができる仕組み(保育ソーシャルワーカーの配置)を整えています。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/92484001.html
文化庁 在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン
https://pocketalk.jp/
ポケトーク(翻訳機)
5 アウトリーチ活動の事例(宮城県仙台市)
アウトリーチとは、要支援家庭に訪問支援をすること。日本の福祉は基本的に待ち受けで、困っている人に来てもらうシステムが一般的。一方で、例えばこども食堂を開催しても、そこに行くことができる家庭はわずか10%強に過ぎず、その他多くの困っている家庭は、様々な事情によって行くことができない状態となっています。
フローレンスでは、2022年10月から医療的ケア児家庭への無料支援「医ケア児おやこ給食便」を、仙台市で試験的にスタート。仙台市内の「おうち保育園」と、障害児家庭支援事業「医療的ケアシッター ナンシー」が提携し、保育園でつくったお弁当をナースが宅配。月1回無料、同居するご家族分も含めたお弁当を希望数ご自宅にお届けする仕組みを構築しました。
医療的ケア児を抱える家庭は子どもから目を離すことが出来ず、親が孤立しがちな状況にある。子どもの体調によっては夕飯の準備もままならないご家庭もあり、食事の面から負担を軽減するほか、医療的ケア児家庭の支援に詳しいスタッフやナースが定期訪問することによって、親のメンタル的なケアや、専門機関の支援につなぐ役割としても貢献することができます。保育園にはキッチンがあるため、こうした「食支援」のサービスを売り出しやすい環境にあると、駒崎理事は付け加えます。
https://nancy.florence.or.jp/
医療的ケアシッター「ナンシー」
6 保育ソーシャルワークの事例
フローレンスでは、2018年から社内に「保育ソーシャルワーカー」を配置。スタッフは社会福祉士や、精神保健福祉士など様々で、財源は公定価格に寄らない自己資金で負担をしています。きっかけは、子どもの着替えの際に偶然発見した虐待の痕。すぐに地域の児童家庭支援センターに連絡をしたが、解決の糸口が見えなかったため、自社でソーシャルワーカーを置き、各種専門機関にアドバイスを受けながら、保護者との面談を行っていく方針を決めました。その結果、2020年までに累計約70世帯の支援を実施。虐待の事例だけでなく、虐待に至る前の悩み事や、DVの相談などにも、保育園を起点とした支援が可能に。
この取り組みの成果から、全国で保育ソーシャルワーカーが導入されることを目標に、その重要性を内閣府子ども子育て会議等で政策提言。結果、2020年度予算に保育ソーシャルワークに関する事業(保育所等における要支援児童等対応推進事業)が盛り込まれました。
https://syokibohoiku.or.jp/topics/316
全国小規模保育協議会の政策提言
児童相談所案件になるほど悪化した状況に至っては、他が介入することは大変難しい。虐待等を未然に防ぐためには、保育園がソーシャルワーク機関となり、まだ芽のうちに対処することが大切であると駒崎理事は説明します。
また、2021年4月からは東京都中野区より、フローレンスが保育ソーシャルワークに関する事業を受託。区内約115園の保育所を訪問し、発達や養育についての相談を受け、専門的な知見に基づくアドバイスを行うほか、早期解決に向けて各種関係機関に情報提供を行っています。
7 ほいくえんこども食堂の事例(宮城県仙台市)
仙台市内のおうち保育園にて、「ほいくえんこども食堂」を実施。おうち保育園かしわぎ(2018年8月)での初開催を皮切りに、おうち保育園こうとう台(2020年10月~)、おうち保育園木町どおり(2022年9月~)で、続々とこども食堂を開始しました。保育園にはキッチンがあり、調理師もおり、安全安心な広い場所があり、こども食堂を開催するにはピッタリであると駒崎理事。通園しているご家庭のみならず、開催時はたくさんのご家庭に利用していただける結果に。
コロナ渦では園内での開催が難しかったため、アウトリーチに切り替え、「仙台こども宅食」として宅食支援を実施しました。当初は自治体から「施設の目的外使用」であると指摘を受けていましたが、禁止の法的根拠を問い直すことによって実施が可能に。現在は厚労省からも許可の通知が出ているため、遠慮なく自治体に開催交渉ができる状況となっています。
また、こども食堂の利点としては、地域で孤立する子育て家庭にとって孤立を解消するきっかけづくりができるメリットや、様々なご家庭と接する機会を活用し、保育園の空き定員を埋めるマーケティングができることもメリットであると、駒崎理事は語ります。
8 「みんなのみらいをつくる保育園東雲」の事例(東京都江東区)
フローレンスでは、2017年4月より「みんなのみらいをつくる保育園」を開園し、「シチズンシップ保育」を行っています。シチズンシップ保育とは、子どもたちが自分たちのことを自分たちで話し合って決める保育のこと。
そこでは、3歳から5歳の子どもたちが自ら議論をするサークルタイムという場を設け、例えば運動会についての話し合いを実施。そもそも運動会をやるのか否か、やるならどのような運動会がやりたいのか、小さい子どもが不利にならないルールづくりをどうするかなど、大人顔負けの議論やアイデアを子どもたち自らが生み出し、決まった種目やルールで実際に運動会をやってみるという流れに発展していきます。
シチズンシップ保育の一番の目的は、子どもたちの内発性を育むこと。意見表明と意思決定の重要性を子どものうちから体験することで、ルールは与えられるものでなく、自らつくり、変えていくことができる、いわば民主主義の体得につながると、駒崎理事は語ります。
民主主義は単なる多数決ではなく、様々な意見の異なる人々が話し合い、ルールをつくっていくこと。しかし学校教育の中では、校則やルールはあらかじめそこにあるものであり、子どもが民主主義を学ぶ機会はなかなかありません。シチズンシップ保育には、子どものうちから話し合い、小さなことから「決めていく」ことを通して、子どもたちにより主体的に社会に参画してほしいという願いや期待が込められています。
また「みんなのみらいをつくる保育園」は、子どもの権利についての発信や、こども家庭庁創設に向けた子ども施策に対する声明の発信、子どもの権利に関する社内研修の場としても、最適な拠点となっています。
https://florence.or.jp/news/2022/01/post50049/
フローレンス こども家庭庁創設に向けた声明
■おわりに
今日の事例はほんの一部であり、私たちが実践してきたこと、そして小規模保育園にできることはまだまだあると、駒崎理事は続けます。小規模保育園が、地域おやこ園へと進化し、少人数の保育だけでなく、子育て家庭のニーズに沿った様々な取り組みを行う。そうすることで、小規模保育園の社会的意義は、今後ますます高まってゆくはずです。
今日紹介した事例から、より多くの保育園が新しい取り組みにチャレンジしてほしい。また、すでに実践されている取り組みがあれば、ぜひ事例を共有してほしい。様々な事例の共有が、より良い取り組み、真似できそうな取り組みのヒントとなり、それらが実践の輪として広がってくれたらと、最後に締めくくりました。
以上、講演本編のまとめとなります。
次回の研修会も、どうぞご期待ください。